運命が何だ、裁きとは何だ?

 2015/7/24 2:15に殴り書きしたまま下書きに眠っていた文章を救済することにします。しっちゃかめっちゃかだし、この考えは自分ひとりでたどり着けたものではなくて、色んな人の考察からとても影響を受けているし、きっと正解じゃないけれど。でも改めて読んだら、あの頃の熱量がこれでもかというくらい詰まっていたから。せっかくだから。というわけで。

 最初、ファウストという舞台を考えれば考えるほどに、結局は皆、神様の手のひらの上にいるんだという絶望だけが深まっていった。メフィストに賭けを持ちかけた神様は、最後にメフィストが賭けに勝ちながらも『人間とは素晴らしい』ということに気付くということを知っていた。知っていた、というか、全ては神様が描いたストーリーの上で進んでいるのだから、当然だ。マルガレーテという存在も、彼女が、二度目の人生を歩むファウストと出会う運命も、全ては神様の決めた宿命。ファウストが自ら努力して生きながらも、あんな最期を迎えることも、みんな。そう思うと……結局は……、という諦めのような絶望のような、何ともいえない気持ちばかり膨らんでいった。

 けれど、そこで諦めてはいけないということこそ、この舞台が教えたくれたことだったのかもしれない。メフィストファウストの願いを聞き入れる前に「大きな試練になる」「破滅」「覚悟が試される」などと言っていた。ファウストとマルガレーテが出会った先に待ち受けている運命を、ある程度メフィストは分かっていたのだろう(劇中にオフィストやリリスもそんなことを言ってる)。しかし人間であるファウストは、「自分の未来なのだから自分でやり遂げたい」と、困難に立ち向かおうとする。人間は、自分の未来は自分で切り開けるものなのだと信じている。そのために努力して、もがき、頑張って生きていく。それを愚かだと笑うだろうか?メフィストはその姿を笑わなかった。「そんなことはない、貴方は立派だった」。それこそが人間なのだと、努力する姿を認めたのだ。

 結果だけ見れば、ファウストは一度目の人生で妹を失ったように、二度目の人生でもマルガレーテを失うことになる。それも、妹と同じように彼女が自ら命を絶つ形で。そこに彼女らの魂の宿命を感じるというか、どこまで行っても神の宿命は変えようがないのかもしれない。けれど二度目の人生で、ファウストは満足した。満足のいくだけのことはしたのだ。神はそれさえも分かっていたかもしれないけれど、もしかしたら人間とは、神の想像を超える努力をし、いつか神の宿命さえも変える力を、神に抗う力を持っているのかもしれない――と、メフィストファウストから感じたのではないか。「神よ、間違うでないぞ。その人間こそが素晴らしいのだ」という最後のセリフは、全ての運命を操っている神への、それこそ『挑戦』なのかもしれない。

 ファウストも終盤のシーンで「何が裁きだ?誰が彼女を裁こうというのだ!」と言っていた。あれほど、死にたくないと神に縋っていたファウストが。メフィストはこの結末を「これが宿命」「神の裁き」と言っていた(諦めていた)、けれどファウストは待ち構えている未来を神のせいにはしなかった。最後まで諦めなかった。その姿勢がメフィストの心を動かし、人間とは何かを教えた。

 地獄へ連れて行くという契約だったはずのファウストの魂を解放してやるのは、人間のように『愛』を知ったメフィストなりの愛情なのだと思っている。神の作った箱庭から、ファウストを自由にさせてやりたかったのかな、と。それまで『宿命』だと受け入れてきたメフィストが、人間と同じように自分の手で未来を変えようとしたのだ。神の作る魂の輪廻に抗った。そうして、ファウストの言った通り、メフィストはもうきっと、悪魔ではなくなったのだろう。

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 色んなこと考えていたんだなあと懐かしくなりました。今ファウストと向き合っても、きっとこんなに色々と考えられない。ぐちゃぐちゃな言葉でも、残しておいて良かった。